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一族の恥
第1章 お母さんへ
なあ、お母さん。
ぼくの魂が死んだ日な。
13歳のぼくの肉体にとって、あの晩のお母さんはものすごく、どうしようもなく、可哀想な人やった。
あの晩、お母さんは「こんな人生もう嫌や」言うて、茶色い髪したぼくの頭を引き寄せて、おいおい泣いたんや。
唇が裂けて真っ赤な血が出てた。
ぼくのTシャツにずきんずきん染み込んでった。
ぼくは慣れてたから、これくらいやったら病院は行かんで済むな、とか冷静に考えてた。
お父さんは寝室で寝とったな、シャツにネクタイ締めたまま、トランクス一丁で、ベッドの上に大の字になってな。
きちっとしたスーツを床の上に脱ぎ散らかしてな。
お母さんを殴ったことなんか微塵も覚えてない様子でな。
「もう死にたい」言うて、お母さん急に立ちあがって、台所の戸棚開けて、漂白剤取り出したよね。
フタ回して唇にくっつけた瞬間、えらいことなった!って思って、慌ててお母さんを突き飛ばした。
漂白剤が床の上に零れて、水溜りが出来た。
塩素の臭いが、ただ広くて豪華なだけの居間の冷たい空気に、ツンと広がったよな。
その冷たい臭いの中で押し問答したん、覚えてるか?
死にたいって叫んでる母親を落ち着かそうと努力する息子の気持ち、想像したことあるか?
綺麗にセットした巻き毛がぐちゃぐちゃに乱れて、お父さんに捕まれ引っ張られたせいで裂けて血塗れになってたブラウスのはじけ飛んだボタンの隙間から紫色のブラジャーが見えとってな。
「死なせて」言うて泣いて、じきに床の上にしゃがみこんで悲鳴のような声で泣く、自分を生んだ女のメタクソ惨めな姿を見てな。
ぼくがどんな気持ちやったか、お母さんは、いっぺんでも想像したことがあったか?
暴れ回るお母さんを抑え付けてる間に漂白剤が脚についてな、あとあとかぶれて大変やったんや。
皮膚が溶けてただれてな。
ぼくの魂が死んだ日な。
13歳のぼくの肉体にとって、あの晩のお母さんはものすごく、どうしようもなく、可哀想な人やった。
あの晩、お母さんは「こんな人生もう嫌や」言うて、茶色い髪したぼくの頭を引き寄せて、おいおい泣いたんや。
唇が裂けて真っ赤な血が出てた。
ぼくのTシャツにずきんずきん染み込んでった。
ぼくは慣れてたから、これくらいやったら病院は行かんで済むな、とか冷静に考えてた。
お父さんは寝室で寝とったな、シャツにネクタイ締めたまま、トランクス一丁で、ベッドの上に大の字になってな。
きちっとしたスーツを床の上に脱ぎ散らかしてな。
お母さんを殴ったことなんか微塵も覚えてない様子でな。
「もう死にたい」言うて、お母さん急に立ちあがって、台所の戸棚開けて、漂白剤取り出したよね。
フタ回して唇にくっつけた瞬間、えらいことなった!って思って、慌ててお母さんを突き飛ばした。
漂白剤が床の上に零れて、水溜りが出来た。
塩素の臭いが、ただ広くて豪華なだけの居間の冷たい空気に、ツンと広がったよな。
その冷たい臭いの中で押し問答したん、覚えてるか?
死にたいって叫んでる母親を落ち着かそうと努力する息子の気持ち、想像したことあるか?
綺麗にセットした巻き毛がぐちゃぐちゃに乱れて、お父さんに捕まれ引っ張られたせいで裂けて血塗れになってたブラウスのはじけ飛んだボタンの隙間から紫色のブラジャーが見えとってな。
「死なせて」言うて泣いて、じきに床の上にしゃがみこんで悲鳴のような声で泣く、自分を生んだ女のメタクソ惨めな姿を見てな。
ぼくがどんな気持ちやったか、お母さんは、いっぺんでも想像したことがあったか?
暴れ回るお母さんを抑え付けてる間に漂白剤が脚についてな、あとあとかぶれて大変やったんや。
皮膚が溶けてただれてな。