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一族の恥
第1章 お母さんへ
 お母さんは大声で泣いて、ぼくに縋りついて、ぼくのことを若い頃のお父さんそっくりや言うて、あの頃のお父さんに戻って欲しい言うて、やさしかった頃の、真面目な医大生やった頃のお父さんに戻って欲しいて、あんたみたいに優しかったお父さんにて、あんたがお父さんやったらよかったのに言うて、お医者さんなんかじゃなくてもええから、あの頃のお父さんにって、今のあんたみたいに優しかったお父さんにって。
 


 お父さんの名前なべんも呼んで、めったに飲まん酒くさい息でなんでんも呼んで、ほんで。


 最後にぼくの名前を呼んで。
 あんたはお母さんのもんやって言って。
 にやって笑って。

 それから。
 ぼくを犯すための手順をはじめたんや。





 




 どう抵抗すれば正解やったんやろう。
 世の中のまともな正義感をもったひとは、この難解な質問にどう答えるやろう。



 ぼくはお母さんを突き飛ばして、ぼくまでお母さんを拒絶したらもしかしたら今度こそ漂白剤を飲み干してしまうかもわからんって分かったうえで、ぼくのチンコを舐めて絞って、また手でシゴいて、ガチガチなったもんを手で支えながらゆっくりぼくの上に跨って、泣きながら腰を振ってるお母さんに、「やめてくれ!」って言うて、なにもかも振り切って、逃げてもうたほうがよかったんやろうか。


 ぼくが我慢せな龍二に負担が全部いってしまうって。
 ぼくがおらな龍二にもお母さんはきっとこんなことをするって、頭の片隅で分かってんのに、見捨てるように、私立小学校の受験からはじまっていた龍二の、一族の足引っ張り合いや私利私欲争いに耐え続けなあかん辛く苦しい人生を、兄貴として痛いくらい理解してるのに、自分自身のためだけに、なにもかも投げ捨てて逃げてもたほうが、よかったんやろうか?




 ぼくは人間やないから分かれへん。



 もうなんも、わかれへんわ。


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