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一族の恥
第1章 お母さんへ
 なあ、お母さん。
 今な、ぼくの頭んなかは水を打ったようにシーンとしとってな、やのに、肉体の中心は熱く燃え滾ってんねん。
 射精する直前みたいな猛烈な疼きが肉体の中心から全身に脈動してんねん。
 チンコはもう、これ以上どうもならんくらいガチガチや。


 どんどん頭ン中が冷たくなってる感じがするわ、もうぼくは、なんにも怖くない。


 もう3人殺してしもたんや。
 あとは4人も5人も、結果は変わらんねん。



 もう、徹底的にやったんで!
 楽しみにしててや、来週あたり、ワイドショーはぼくの話で持ちきりや。



 ぼくのせいで一族は赤っ恥や。
 お爺ちゃんの病院、つぶれてまうかも分からんな。
 一家離散ならぬ、一族離散や。
 そうなったら地位も名誉もあったもんちゃう。
 家族の大切さみたいなん、思い知るやろな。
 ただそこに平和な家庭があり、家族がおること、それがどんだけありがたいことか、あいつらみんな、はじめて思い知るやろうな。



 せやからお母さん、里奈子に金、絶対渡してくれよ。
 里奈子の幸せな生活が続くよう、はよ離婚したってくれって伝えてくれよ。
 里奈子はこれ以上ないほど康生を可愛がってくれた。
 母親でもないのに、母親の責任を果たしてくれた。
 せやからこの金は、ぼくが1年間一生懸命働いて貯めた、康生への責任。
 ぼくの、康生の父親としての最後の責任や。
 


 これを里奈子に渡して、康生がこの春高校を卒業したあと、いずれ2人のあいだに生まれてくる赤ん坊のために使ってくれたら。
 責任もって康生と里奈子の2人で、この世に生まれてきた大切な命を慈しみ育ててくれたら。


 そうしたらぼくは。


 分厚い塀の中の無機質な部屋の中で、首に縄巻かれて、足元の板が外されて、天井から宙ぶらりんになって首の骨折れてだらしなく糞尿垂らして死んだって、浮ばれるわ。


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