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一族の恥
第1章 お母さんへ
 ぼくも、里奈子のことは初めて見たときから好きやった。


 地味な雰囲気とかな、気だるそうにグラウンドの影で俯いてる表情とかな。

 みょうに鼻筋通った高い鼻とかな、
 薄い唇とかな、
 真夏でも長袖のジャージ着てる、グラウンドの直射日光に晒されて赤みを帯びた真っ白い肌とかな、
 ときどき校内で見かける、くるぶしまである昔の不良みたいな長い丈の襞スカートを翻して歩いてる後ろ姿とかな。
 長すぎるスカートの重量感には似合わん、ちっこいからだつきとかな、
 背中まであるさらっさらの長い髪とかな。
 



 どこが好きやったか挙げられへんくらい、里奈子のぜんぶ。



 好きとか、そんな言葉じゃ表現でけへん感情やわな、正確には。
 ずっと探してた靴下のかたっぽを見つけたような、そういう類の感覚に近いな。


 お母さん、覚えてるやろか。
 電車乗って、わざわざ遠いのに観に来てくれた試合のこと。
 あの試合のまえにな、ぼく、里奈子に「好きです」言うたんよ。
 絶対里奈子のために試合勝ちます!言うてな。
 勝ったら付き合ってください!てな。
 今考えたら俺も熱かったな。
 
 里奈子は黙ってた。
「もっといい人いてますよ」とか言うたりもしてた。
 けど、試合には勝ったんや。
「勝ったら付き合ってくれる言うたやろ!」とか里奈子に言うて、返事を渋る里奈子に駄々こねたんやけど、今考えたら完全に脅し文句よな。
 
 里奈子にとっては半分しゃあなしやったんやろけど、ぼくと一緒に帰ってくれる言うから、試合の後ほかのやつらと離れて2人で歩いとってん。
 ほしたら、武井先生に見つかってな。

「なんやお前ら、付き合うてんのか?」て聞かれたから「はい」答えたら、武井先生は面白そうに首傾げとった。


「へえ、お兄さんによお似たの、好きになったんやな」


 そんなことを、里奈子に言いながらな。


 
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