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一族の恥
第1章 お母さんへ
 里奈子の3回目の中絶の相手は、俺ゆうことにした。
 でなきゃ、里奈子があんまりにも惨めやろ。

 家まで行って、里奈子のおかんに土下座までしたんやで。
 けど里奈子のおかんは慣れっこや。
 過去2回は相手が誰かすら知らんねんから、むしろ、「きみ、えらい!」て褒められたくらいや。
 そらもう、へっちゃらなツラしとったで。



「金まで面倒見やんけど、サインだけはしたる」てな。

「うちなんか10代のころだけで10回以上したわ、それでも子供4人ちゃんと健康に生んでんねん。今回も下手うっただけや、里奈子、気にしたあかんで。けど金が惜しかったら次はちゃんとしいや」とか言うてな。


 飾り棚んなかいっぱい飾られた、里奈子を3回も中絶さした男が緑色のグラウンドの上でラガーシャツ着て輝いてる写真を背に、笑顔でな。
 生まれたばっかの赤い顔した赤ん坊抱いて父親みたいなツラして笑っとる、その男の写真が、テレビの横に2枚飾ってある、古びた洋室居間でな。



 
 なぁ、お母さん。
 里奈子が人間を殺した日にな。



 
 ぼくな、会うたんや。
 里奈子の魂をずたずたに引き裂いて、なんべんもなんべんも殺した、里奈子の兄貴に。


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