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一族の恥
第1章 お母さんへ
 お母さん。

 ぼくはな、里奈子を幸せにしてやりたいんや。
 もう加害者にはしたくない。
 ぼくの願いはそれだけや。
 

 せやから、どうか金を渡してやってくれ。
 この金は、ぼくの責任や。
 ぼくには責任があんねん。
 


 
 3年半の刑期を終えて、里奈子に迎えられてアパートに帰ってな。
 捕まる前に戻ったかのような幸せな家族の時間を過ごして、でもあの頃とは違って、康生だけが隣の部屋に布団敷いて、眠りについたんや。

「もうオレ高校生やで?なんで大輝兄ちゃんと一緒の布団で寝なあかんねん、恥ずかしい」
 とか言うて、大人ぶった横顔でな。

 あれは明け方やったんやろうか。
 布団の中で、ぼくの背中に摺り付いて眠っとった里奈子が、きゅうに寝返りを打ったんや。


 カーテンの向こうはまだ暗くてな。
 足元に見える影が、向こうの部屋で寝てたはずの康生やって気付くのに、しばらく時間がかかったわ。


 だって、康生は17歳になってたんや。
 まさかぼくが捕まる前と同じように、夜中に目が覚めてしまったときに「おかあさん」って呼んで、大人の男みたいにでかくなった康生が、里奈子に摺り付いていくなんて、思いもせえへんやろ?

 

 康生は声変わりしてすっかり男らしくなった低い声で「おかあさん」ゆうて、掛け布団をめくり上げて里奈子の腕の中に滑り込んでいった。
 冷たい風がぼくの脚を撫でたわ。


 康生は何度も「おかあさん」って里奈子を呼んどった。
 里奈子の胸元に顔をぐりぐり擦り付けて、何度も何度も「おかあさん」って呼びながら、顔を頬にも擦り付けて、里奈子の唇にキスして、腕の中から起き上がって、じきに里奈子の上に覆い被さった。


 

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