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全てが終わったとき、俺は変わらず君に恋をしているだろうか
第1章 藍は香る
「じゃあ、ちょっと待ってな。すぐに採ってくる」
「……道具も何も使わないのですか?」
シラハが崖の隙間に手をかけたとき、ラズリアは不安から無意識のうちにそう漏らしていた。
「こちとら忍者なんでな、こんな崖ぐらいどうということもない」
己の肉体を極限状態の過酷さの中で鍛えに鍛え抜き、相手に反撃の隙を与えずその命を刈り取る。
数多ある職業の内、上級職(ハイクラス)というものに分類されるもので、"忍者"であるというだけである程度の実力者ということが証明できるのだ。
いうが早いが、シラハは飛ぶように崖を登り始めたかと思えば、その手中にユーフェンの花を納めラズリアの元に戻ってきた。
「ほら」
「あ、ありがとうございます……!」
シラハに差し出された小さな薄紫の花を、ラズリアは震える手で受け取り保存用の瓶にそっと入れて蓋を閉めた。
「良かった、間に合って……。シラハさん、本当に、本当にありがとうございました……」
フードの隙間から、ラズリアの微笑みが覗いた。顔の全貌は相変わらず伺えないが、頬は薄っすら上気しており涙すら伝っている。
当初は嫌々この森にやってきたシラハだったが、花一本でこうもあけすけに喜ばれると、不思議と自分も晴れやかな気分になっていた。
「さあ、目的は果たしたろう。さっさと街に戻るぞ。アマラカマラの牙も回収しないといけないしな」
ところが帰路を辿っているうちに空が灰色がかり始め、あれよあれよと雨が降り出してきた。
たちまち豪雨と化して、二人の身に襲い掛かる。
「まずいな、こっちに来い。しばらく雨を凌ぐぞ」
手招くシラハの行く手には、洞穴が黒い口を空けて待っていた。