この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
全てが終わったとき、俺は変わらず君に恋をしているだろうか
第1章 藍は香る
「……きゃああぁぁッ」
意識にかかっていた靄(もや)が晴れた頃、ラズリアは自分の視界の中で横たわるシラハを前に叫び声を上げた。
「し、シラハさん、シラハさん、お願い、しっかりしてください……!」
鍛え上げられたシラハの身体を揺さぶるも、その瞼が動く気配はない。
ラズリアは戦慄き、そのオリエンタルブルーの瞳に涙を溜める。
ついに恐れていたことが起きてしまった。
これまでラズリアが頑なに男を避けてきたのには理由がある。
ラズリアはセントパーロウを擁する大陸から遥か海を隔てた西方の離島にある、リーウィと呼ばれる峡谷、外界と接触を断った秘境の生まれであった。
百人にも満たない少数民族の一人で、古き時代より死霊や魔なるものを秘伝の技をもってその地に封じ続けてきた血に連なる者であった。
呪詛を含んだ音と歌、そしてそれにあわせた踊りを駆使して絶望(ディスペア)級の魔物を遥かに凌ぐ、凶悪にして強大な力を持つ魔物たちを外界に放たぬよう、密やかに封印、あるいは討伐し続けてきたのである。
しかし、不測の事態は数年前に起こった。
ラズリアの母も彼女と同じく、魔なるものを封じるシャドウダンサーの一人であったが、ある日封じるはずの悪霊の返り討ちにあい、あろうことか取りつかれてしまったのである。
その魔物というのが、最悪であった。
男の精液と生命力を糧とする、絶世の美女の形をした悪霊──。
一般的にはサキュバスの名で知られる淫魔、リリス。
リリスはその魔力で男たちの本能を刺激し、取りついた女との情事を促して糧を得るのだ。