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全てが終わったとき、俺は変わらず君に恋をしているだろうか
第1章 藍は香る
花がもうじき枯れるとあって、ラズリアはついに自分の身の上をヤミーラに話してしまった。すると青猫亭の看板娘は同情したのか、シラハを紹介してくれた。
年の頃は20歳ほどの、銀の髪と赤い瞳を携えた美丈夫。
女ではなかったが、高い登攀スキルを有する冒険者だという。
近づくのを躊躇しているうちに悪い印象を与えてしまったらしく、シラハは機嫌を損ねたまま森へ向かった。
『一緒に行くならともかく、委託する金もないのになんで俺だけで行けって流れになる。人にものを頼むなら、自分で頭を下げたらどうなんだ』
至極最も、シラハの言うとおりである。
出来ることなら、ちゃんと面と向かって礼を述べ、共に花を摘みに行きたかった。
本当は、沢山の人と言葉を交わして、色んな知識や知恵を吸収したい。
全てを抑制されて生きてきたが、ラズリアとて年頃の娘である。異性に興味がないと言えば嘘になる。
――関わってみたい、シラハさんと。
ケープマントがあれば大丈夫だ、と半ば自分に言い聞かせてラズリアはシラハを追う。
それが間違いだったのだ。
突然豪雨にみまわれ、足止めされてしまった上にケープマントを脱がなくてはならなくなった。
あの時点で、シラハの手を振り払って一人で街に戻るべきだったのだ。
リリスの魔力に抗える男などいない。そして一度でも交われば死が待っている。
己の言動一つで、人を殺めることになるかもしれない――。
師の言葉を軽んじた結果、シラハを死に追いやってしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
後悔に涙を流せどもう遅い。形はどうあれ、人を殺めたことには変わりないのだ。街に戻り、シラハを丁重に弔ってもらった後、自分は衛兵に身を差し出し、犯罪者として牢に繋いでもらう他ない。
故郷を出ても、結局自分の行き着く運命は変わらなかった。
「…………そんなに泣くなよ、その、悪かったとは思ってるんだから」
困惑を含んだ、男の低い声にラズリアは目を覆っていた手をゆっくりと下げた。
気だるげに、すまなさそうに銀の髪をかきあげる歴戦の忍者。