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全てが終わったとき、俺は変わらず君に恋をしているだろうか
第1章 藍は香る
「シラハ、さん……?」
「……なんだよ」
目の前の青年の血色はどうみても良好そのもので、赤いその瞳は気まずそうに惑い決してラズリアを真っ直ぐ見ようとはしない。
――生きている。
「……シラハさんっ、シラハさん!」
「わ、な、なんだ急に」
ラズリアは歓喜のあまりシラハに抱きついた。シラハとしては、無理矢理襲った自分に当然罵倒の一つでも飛んでくるものと思っていたのだから、ラズリアのこの反応は不可解極まりない。
「おい、一体なんだっていうんだ」
抱きつかれ戸惑いつつも、このたわわな胸の感触はまんざらでもない。しかし再び欲情してはまずいと、シラハはラズリアの身体に毛布を被せわけを尋ねた。
ラズリアもラズリアで、既にシラハを巻き込んでしまったのだからこれ以上事情を隠すのは道理が通らないだろうと、洗いざらいを白状する。
故郷のことも、これまでの自分の生活も――リリスのことも。
「淫魔、か……」
「……何故、シラハさんは無事だったのでしょう」
「さあな……」
自分の身には間違いなくリリスが巣くっている。そして同じようにリリスを宿していた母が男を食い殺していたのも未だ記憶に焼きついていた。
「でも、とにかくご無事でよかったです……」
シラハの困惑は天井知らずに上がっていた。リリスに取りつかれているとはいえ、自分を襲った男を責めるどころか心配ばかりしているラズリアは、出身地とこれまでの生活が相成ってかどこかずれている。
まだ何も知らない、見目麗しい少女。
自分の色に染めてみたいというのが、男の本能である。もう一度味わいたい、この極上の果実……。
ラズリアも気づいた。シラハの瞳に欲情の火が灯ったのを。
「わ、私、これで、失礼致します……。今回は、本当にありがとうございましたっ」
雨は二人が交わっているうちにすっかり上がったいたようだ。
干していた自分の衣服を乱暴に回収し、それを着ることもなくケープマントだけを羽織ってラズリアは洞穴を飛び出していった。
「あ……」
名残惜しげに伸ばしたシラハの手は空しく宙をかいた。