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全てが終わったとき、俺は変わらず君に恋をしているだろうか
第1章 藍は香る
冒険者の活動拠点として大陸でも名高いこの大都市セントパーロウには、実に多くの酒場が存在している。酒場本来の機能に加え、数多あるクエストの斡旋場として冒険者の出入りは後を絶たない。
その日の朝方、シラハは駆け出しの冒険者でも簡単にこなせる魔物討伐のクエストを終え、馴染みの酒場『青猫亭』のドアを潜った。
「ヤミーラ、酒を頼む」
酒を催促しながら、カウンターに金貨を数枚放る。するとカウンターの奥にいた理知的な瞳にスクエアの眼鏡をかけている30歳前後の女性、ヤミーラは顔をしかめた。
「シラハ、あんたね自分がちょっと腕の立つ冒険者だからって朝から酒あおろうなんて生意気よ」
ヤミーラのいうとおり、シラハはこの青猫亭に入り浸る、否、セントパーロウで活動する冒険者の中でも屈指の実力者であった。
元々は異国からやってきた青年で、その見慣れぬ黒装束と透き通った水のごとき美しい片刃の剣──刀を二本駆使して戦う異様な姿に、当初は誰もが皆、訝しげな目でシラハを見ていたものだ。
しかし、数日と経たぬうちにシラハはそれまで滞在していた冒険者の手を以てしても十年の間討伐が叶わなかった、絶望(ディスペア)級と認定されていた魔物『クリムゾンファイアドレイク』を単独で狩ってしまったのである。それもほぼ無傷で。
更にルビーのごとく赤い瞳と夜空に瞬く星の輝きにも似た銀髪を持つ美丈夫で、その姿と無類の強さから瞬く間に有名人となった。
人当たりもそれなりに良く、言わば"好青年"ともいえるシラハはたちまちセントパーロウを代表する冒険者にまで登り詰める。
いまではシラハにクエストを依頼したい、という街の住民で溢れかえっているほどだ。
「いいだろ? ここんとこ依頼続きでゆっくり休む暇もなかったんだから」
今朝の魔物討伐クエストも、セントパーロウの住民から是非にと頼まれて仕方なく出向いた。自分でなくとも、その程度ならこなせる冒険者が他にもいるはずなのだが。