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全てが終わったとき、俺は変わらず君に恋をしているだろうか
第1章 藍は香る
「だー、もー、ちょっと待ちなさいよ! 今あんたに構ってる場合じゃないのよっ」
シラハの事情を知っているヤミーラではあるが、そんな彼を無下にしさっと背を向けてしまった。
口ではそう言いつつも、ヤミーラは来る客を粗雑に扱うことはそうない。常連客も新規の客も同等に扱う経営者の鑑。
そんなヤミーラの言動を不思議に思ったシラハは、彼女の視線の先にあるものを見つけてようやく得心がいった。
(なるほど、先客か)
カウンターを挟んでヤミーラと何やら話し込んでいる者がいた。
フードつきのケープマントに隠れて定かにはならないが、恐らく身長の低さと小柄さからいって女だろう。シラハは仕方ないと、そちらの話が終わるまで椅子に腰かけて待つことにした。
「……シラハ、あんた"登攀(クライミング)"のスキルMAX認定されてたわよね?」
しばらくしてヤミーラは神妙な顔つきでシラハにそう話を持ちかけてきた。
登攀スキルとは文字どおり岸壁や山々を登り降りする技術を指している。この他にも"水泳(スイミング)"や"薬草調合(ハーブミクスチャー)"といった、本人自身のレベル以外の技術全般は総じてスキルと呼ばれていた。
「だから?」
シラハ少々不機嫌気味に答える。ヤミーラがこう持ちかけてきたということは、十中八九クエストがらみの話だからだ。
「大したことじゃないのよ。ほら、街の北西の森に、五年に一度、この時期に七日間しか咲かない花があるじゃない?」
ヤミーラの話を要約すると、こうである。
北西の森に咲くそのユーフェンと呼ばれる薄紫色の花は様々な薬の材料になるのだが、つい先日その薬草摘みクエストが大々的に行われ、現在根こそぎ摘まれた後なのだという。