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全てが終わったとき、俺は変わらず君に恋をしているだろうか
第2章 清廉 -セイレーン-
重症だ。冒険者にとってクエストがこなせないとなれば、収入源がなくなるのだから死活問題にも等しい。
シラハがこの問題をどう解決するか、考えを巡らせていたそのとき、来客を告げる酒場のドアにつけられたベルが鳴った。
「いらっしゃい──……あら」
来客を歓迎する定型の挨拶を途切れさせたヤミーラを不審に思い、シラハもドアの方に視線を流す。
そこに立つのは、白いケープマントをまとった小柄な人物。
ラズリアだ。
相変わらず顔と体型は隠されていたが、あの独特の形とデザインをしたケープマントは忘れるはずもない。
「お前……」
「……え、シラハさん……?」
ラズリアは店の置くにシラハの姿を見つけると、人知れず肩を震わせ開け放したドアの先に踏みいることなく踵を返し、いずこかに向かって駆け出した。
「おい、待て!」
「ち、ちょっとシラハ、料理代はサービスじゃないわよ!」
ヤミーラの制止も聞かず、シラハはラズリアを追って酒場を飛び出していった。
「どこに行った、あいつ」
外は既に夜の闇の中。街灯もあるが人探しをするには少々心もとない。
しかし、シラハには街灯などあろうがなかろうが関係のないことだ。忍者とは元来闇に生きる者、夜目がきくのもその職に就く条件の一つである。
はためく白のケープマントが、数十m先で裏路地へと続く角を曲がったのが見えた。
それを追って狭い路地裏に入り込むと、そこには中身の入っていない朽ちかけた木箱や樽が乱雑に散らばっており、なんとも饐えた空気が漂っている。