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全てが終わったとき、俺は変わらず君に恋をしているだろうか
第1章 藍は香る
先ほどヤミーラと話をしていたケープマントの人物もそのユーフェンを要するのだが、生憎とセントパーロウに到着したのはそのクエストが終わった後であった。希少価値の高い花とあって、たった一輪買い取る金すら持ち合わせていない。
花が残っていないかと森に踏みいるも見当たらず、やっとの思いで一輪だけ発見したものの、そこは断崖。登攀スキルを有しておらず、崖を登って花を摘める"女冒険者"を捜していたということだったが……。
「五年後まで待てばいいんじゃないか?」
「ちょっとシラハ!」
当人に聞こえるように言葉を放ったシラハにヤミーラは焦って声を潜めるよう目で促した。
「あの子相当切羽詰ってるみたいなの。あんた代わりに花を摘んできてくれない?」
ここまで聞かされたシラハであったが、花を摘んできてやろうなどという気持ちは微塵も湧いてこなかった。
「フードのあいつも冒険者なんだろ? 一緒に行くならともかく、委託する金もないのになんで俺だけで行けって流れになる。それに"女冒険者"と限定しているのはなんだ。人にものを頼むなら、自分で頭を下げたらどうなんだ」
「シラハ、言いすぎよ!」
何故ヤミーラが礼を欠くような人物の肩をこれほどまでに持つのか、シラハには不思議でならなかったが、それでも首を縦に振るつもりはない。
「お願いよシラハ、その花、今日の夕方には枯れちゃうのよ。私の秘蔵の蜂蜜酒、一本あげるから。ね?」
蜂蜜酒、と聞いてようやくシラハは姿勢を崩す。ヤミーラの酒好きも相当なものだ。その彼女が秘蔵品を差し出すなど願ってもないことである。
「ふーん? そこまでいうならいいよ。今すぐ採ってくる。夕方までだな」
酒を譲り受けられるとあらば仔細などどうでもよかった。
シラハは再びドアをくぐり、森へ向かった。