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全てが終わったとき、俺は変わらず君に恋をしているだろうか
第1章 藍は香る
死神とまみえるシラハが、己を仕留めんと刀を振り上げた瞬間──。
「危ない!」
若い女の必死な叫びに気を取られ、シラハの刃は魔狼の頭蓋から僅かに逸れ、片耳を削ぐにおさまった。
狙いがそれなければ、今の一刀で確実に頭を真っ二つに出来たものを。
シラハは舌打ちし、再び刀を返し構えを取った。
しかし、次の瞬間にはアマラカマラは全身を無数の刃に斬りつけられたかのように血を吹き出し、その巨体は呆気なく沈んだ。
シラハは見た。アマラカマラの巨体の回りを、急速に回転し滑空していく投擲武器を。
(……チャクラムの一種か?)
円盤型の薄い刃の中心に穴が空けられたその二枚の武器は、意思でもあるのか空に軌跡を描きつつ放った人物の手元に戻っていく。
白いケープマントに身を包む、小柄な人物の手に。
「あ、あの……」
しばしの沈黙を経て、チャクラムを持ったその人物──シラハに花摘みを頼んだ女──が控えめに声をかけてきたが、そのあとに続く言葉は待てど聞こえてこない。
シラハはとうに刀を鞘におさめており、この状況は一体何なのだと頭を抱えてしまった。
「……あんたは酒場で待ってるんじゃなかったのか?」
『青猫亭』の看板娘(娘というには少々とうがたっている気がしないでもないが)ヤミーラはシラハ単独で花を摘みに行けと言ったのだ。
その依頼人である女が、何故ここに。
「あ、の……貴方の仰有ったとおり、私が酒場で待つのは筋が通らないと思い……追ってきた次第です。そうしたら、戦っているのが見えて……」