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恋するアイドル❤︎〜内緒の発情期〜
第9章 それは禁断の果実

「海霧‼︎」

背後からくるみちゃんの声が発せられて八反田さんはそこでようやく手を放した。
地べたに引きずり込まれていくknifeさんをほうって、

「お前も乗れ」

くるみちゃんをワゴン車へと引き入れた。
城田さんがアクセルを踏み込む。
窓を振り返るとぐったり尻餅をついたままのknifeさんが喉を抑えていたが、彼は私の隣の八反田さんを確かに睨めつけて……左手の中指を差し向けた。
knifeさんに反省の色はないらしい。
それなのにくるみちゃんが心配そうに彼を振り返っていたのが印象的だった。
すぐにknifeさんの獰猛は交差点の向こうに消えた。

「どうするの?」

くるみちゃんの声が震えていた。
彼女はあの人の心配をし過ぎだと思う。
こうやって健気なところがあるくるみちゃんには、いよいよ彼なんて似合わない気がしてくる。

「記者共が追ってきてる可能性もあるしな……とりあえず撒きながらここから近い城田の家に行く」

「え、ええっ!?八反田さん、ま、ま、ま、待っ」

狼狽したのは城田さんだ。
彼は汗だくになりながらハンドルを握り直した。

「待たん!その暇はない!」

「でも、ぼ、ぼ、ぼ、ぼく!部屋汚っく、て……」

「俺は慣れてるっ!」

たぶんそーゆー問題じゃないのだろうけど。
八反田さんは一度こうと決めたら断固として譲らない性格だし、私はそんな決断力のあるこの人を好きだけど……。

「あ、ぁ、ぁ、せせ先輩って、いいい、いつも横暴ですよ……」

上司に居たらきついと思う……。

城田さんふぁいとぉ!

心の中で盛大なエールを送りつつ、いつ巻き戻してもおかしくない気分の悪さを頭の片隅へ必死に追い遣りながら、たどり着くまでの凡そ15分を凌ぎ切った。
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