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恋するアイドル❤︎〜内緒の発情期〜
第9章 それは禁断の果実
「だから、彼氏とか彼女とか……そういう関係が欲しいのなら、俺は無理なんだよ!分かるだろ!」

「分かんないー!八反田さん、私のこと好きかもって前に言ったもん!」

「言ってない!!」

「あ!言ったもん!嘘つきー!」

「嘘つきで結構‼︎」

「うわーん!!」

それから私達の会話は途切れた。
ウィンカーのメトロノームとエコなエンジンの回転音だけがBGMだったけど、八反田さんは右折待ちの間にエアラバを流した。
話題の新曲だ。
この人の手を離れた今も、彼女達はランキングチャートの上位に君臨し続けている。
今季のミステリードラマのOPを勝ち取ったのは、今のマネージャーさんなのだろうけれど、その土台を築いたのは間違いなく八反田さんだ。
その彼がアクセルをゆったりと踏み込む。
景色が気持ち良く流れて見知った交差点を一つ抜けた。
もうすぐ自宅に着いてしまう。
言い争いをした後でさえも離れたくないと思うから初恋って面倒くさい……。
自然と、彼の服の裾を掴んで引き止めてしまっている自分が居た。
すると、彼もこちらを見ず、私の欲しいセリフをただただ与えてくれるから私の恋のエンジンだけがフル加速してしまうのだ。

「……かっこ悪いだろ、こんなの。だからあんまり嫉妬させてくれるなよ」

彼は助手席とは真逆のサイドミラーに白を切った。
私の位置からは表情まで読み取れなかった。

「八反田さんはいつだってカッコいいですよ」

「……っ!そうじゃなくて、その手を引けない俺の気持ちを考えたことがあるのかってことだ!」

八反田さんは私の家を覚えていてくれたようで、早坂さんよりも丁寧に外壁に車を寄せて停止した。
サイドブレーキを引く手慣れた動作にどきりとしてしまう。

「俺には一度決めた伴侶がいる。息子もいる。どちらも愛しい家族だ。お前への気持ちとは違う。だがどちらかを選べというのなら、俺は……」

八反田さんは言葉尻を噛んだ。
私はその瞬間、自分の体に大きく亀裂が生じるのを感じた。

「だからお前も、余所見ばっかしてないで一流アイドルを真っ直ぐ目指しなさい」

それは八反田さんの出した答えに違いなかった。

私の気持ちは、迷惑で……。

きっとこの人には……。

不必要なものなのだと。
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