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恋するアイドル❤︎〜内緒の発情期〜
第10章 裏切り
綺麗とか美しいとかいう感性を私だって人並みには持っているから、その気持ちはB専と謳われる私にも理解出来る。
こういう人に恋をしたら人生が少しは開けるのだろうかとか、ネガティブに毛が生えた未来を考える。
でもその顔を改めて眺めて、それでも八反田さんへの強い想いを打ち消せずにいる途上で、黒咲くんは私の膝の上のランチボックスからすばやく卵焼きを攫っていった。

「あ」

と言う間に咀嚼される。

「……美味しい。やっぱ風間さんのが一枚上手かな」

「え?それどういう意味?」

卵焼きの精度を今突然、黒咲くんの彼女と比べられても困る。

「最近さ、新しい女が出来て。ソイツ、オレのこと好きって弁当作ってくれるんだけど、どうにも飯マズでさぁ……。案外簡単に堕ちたし、やっぱ風間さんに戻ろうかなぁ……って意味」

「え?いいよ……遠慮します」

「嫌そうだなぁ」

珍しく声を立てて笑う彼は、オレの良さが分からない風間さんやっぱりイイコだし好きだなとふいに告白を兼ねるから面倒だ。

「そんなこと言って、お弁当作ってくれるその人に失礼じゃない」

「いいんだよ。どうせあの人も旦那あり子ありの蟻んこなんだから。オレのは子供用のついでだよ」

……不倫だ。
なんとなく、だろうなと察しはしていた。
歳上女性が好みだという黒咲くんの性癖はもう知っていたし、お弁当のバランやピックが消防車やらパトカーやらピカピカチュウチュウだったりしたから。

「でも、アッチの方は凄い上手いんだよね。上手いってより、相当欲求不満だったのか、野獣っていうか」

「へぇ!やっぱり浮気する奥さんてそういうものなの⁉︎」

「風間さん、この手の話勝手に食い付いてくるよね。それ以外、オレのこと全く興味示さないのに。さすが官能小説愛読者だね」

彼は笑って、近くのゴミ箱にお弁当をひっくり返した。
唐揚げやお握り、ポテトサラダなんかがバラバラと音を立てる。
仕方なく私が持ってきたトーストサンドの4分の1を手渡した。
彼は切れ長の目を輝かせていただきますと優雅に噛り付く。
まるで高級で聡い黒猫だ。

「そういう人と、何処でするの?」

私が尋ねると、黒猫は相手の家だよと何食わぬ顔をした。
今日もカトリックの神聖な昼下がりには不躾な会話を繰り広げる。
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