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恋するアイドル❤︎〜内緒の発情期〜
第10章 裏切り
「……最悪だ。もう、ここには来ない」
そうして彼はすっくと立ち上がり財布から諭吉さんを一枚テーブルに叩きつけた。
「そう言っていつも二週もすりゃあ来てるじゃないか」
「分かってるなら今日はもう帰してくれ。いくらなんでも孤立無援にも程がある」
「かかか苛めすぎたな。次のお代は要らないよ。これじゃ多すぎる」
「それとさっきの。インダス川じゃなくてガンジス川の間違いですよ」
「おお!そうだった!そうだった!またな!」
暖簾をくぐった八反田さんの背中にそう言った親父さんは、
「追いかけなくていいのかい」
次いで私を問い正した。
「そうよ、アタシのことは気にしなくていいし。言ったでしょ?あなたのことになるとすぐ本性現すって。あの人、このままだと嫉妬心すら我慢しそうだったから嗾けただけよ」
早坂さんもその口車に乗る。
ようやく理解できた。
最初からこの2人は、そのつもりで八反田さんに攻撃的だったらしい。
「馬が合う、ねぇ」
「馬が合う、わぁ 」
2人でなんだかもう仲良さげ。
むしろ私がお邪魔とか?
ともかくようやくその意図が掴めて私は、
「ありがとうございます!ご馳走さまでした!」
どんぶりとお箸を置いて席を立った。
「美味しかったです!あ、スープ、全部飲みきれなくてごめんなさい!」
「いいからもう行きな」
手を前後に振る親父さんと微笑む早坂さんにおじぎして、私は八反田さんを追いかけ路地を曲がった。
彼は大通りでタクシーを捕まえ乗り込むところだった。
全力疾走。
dolce内でも評判のスポーツ音痴がそれをしたらどうなるか。
「は、八反田さん、ま、待って……」
足は縺れるしおっぱいは揺れて邪魔だしローファー脱げそうになるし。
はぁ、はぁ、息吸えない。
も、だめ……。
「ふぇ……」
バタン。
タクシーのドアが閉まる音と、私が盛大にコケた音が一緒くたになった。
排気ガスが私の顔を黒く染めて酷く咽せ返る。
うう、間に合わなかった……。
目が染みて涙がじんわり出てくる。
こんなつまらない結果になるなんて、せっかく送り出してくれた2人になんて説明しよう……。
「……何やってんだお前……」
その声に、ぐっと夜空を見上げれば。
東京の淀んだ星々の中、八反田さんが腰に手を当て野良猫でも見るような目でコチラを見ていた。