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恋するアイドル❤︎〜内緒の発情期〜
第12章 みほこお姉ちゃんと王子様

「今、眠っているからそっとしておいてあげてね」

その言葉に反応すらしなくなっていた私は、黙って自室に向かった。

「シャワー入って来ようっと」

鼻歌交じりに一度小さくスキップしたお姉ちゃんの背中に嫉妬して声を掛ける。

「お姉ちゃん、最近シャワールームにばっかりいるね」

振り返った彼女は女神様みたく微笑んだ。

「バスルームが、今はお姉ちゃんの強い味方なの」

階段を降ってしまったお姉ちゃんを追わずに、わたしは自室のドアノブを捻った。
ランドセルを放り投げる。

「あーあ、やっぱり、ずるい」

一言だけくまちゃんに愚痴を溢し、私は涙を舌ですくった。













――それにしても、ここ、懐かしいわ。

みほこお姉ちゃんの面影そっくりな顔立ちで、八反田さんの奥さんのなほこさんはポツリと呟いた。

そして彼の顔を覗き込みながら更に続ける。

「あの日、いきなり呼び出されたと思ったら、あなたの彼女のふりをしてほしい……だもんね。アレにはびっくりしたわ」

過去を懐かしむ彼女の表情は、黒咲くんとのテレビ電話の中で見せた廃退の美とも、先程まで怯えたように謝罪を繰り返していた鬱蒼とした翳りとも違う、穏やかそのものである。

「あの生粋の御嬢様だったお姉ちゃんがよ?まさか不倫してるだなんて!しかもあなたみたいな冴えない人と!信じられなかったわ……」

けれどそんな可憐で清楚な微笑が途端に浅黒く変色したのだ。

「でも最っ高に面白かったわ!」

猛毒の気配を微塵も隠さない、抑圧された笑顔に恐怖すら感じ得た。
この人は本当にみほこお姉ちゃんとは真逆の位置に生まれてきた女性なのだ。
されど美しい。
みほこお姉ちゃんが太陽なら、この人は月のよう。
そういう影のある妖しい輝きを放つ人なのだろう。

「待って下さい……。あれ、どうしてそれなのに……。八反田さんは……」

みほこお姉ちゃんと結婚しなかったのだろう?
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