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真壁君は喋らない
第1章 真壁君は喋らない
そこであたしは気付く。いつの間にか明かりは点いているし、あたしはブラジャー丸出し。幽霊になんとか服を着せるつもりが、あたしまで脱いでしまっている。
「……」
無言のままそっとボタンを閉じられると、気が遠くなる。あたしはバカだ、大バカだ。こんなんじゃ、初対面の幽霊に子鬼と呼ばれても反論出来ない。
「ご……ごめーん!」
あたしはいたたまれなくなり、そのまま一目散に玄関を飛び出す。真壁が追ってこないのは幸いなのか、不幸なのか。どちらにしても、今日あたしが真壁の前で大恥を晒した事実だけは変わらなかった。
ほれ、見た事か。やはり子鬼は、黄泉への使者だ。奴のせいで真壁は不浄に捕らわれ、気高き魂を地に堕とす。
掛布を抱いて握る左手には、血管の筋が浮き出ている。無駄を省き滅多に開かない口からは、声こそ出ないが短く荒い息が漏れる。私も生娘ではない、男の性は理解している。いくら神仏が欲を否定しようとも、野獣に餌も与えず飼い慣らす事は不可能なのだ。だが、彼がこの長屋に現れてからこうも自慰に耽るのは、初めての事だった。
あの子鬼のせいだ。あの子鬼が、彼に剛直の呪いを掛けたに違いない。