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真壁君は喋らない
第1章 真壁君は喋らない
私の肉体でも沈黙を貫いた野獣は涎を垂らし、彼自身の右手に縋る。呪いとは、こうも恐ろしいものなのか。
それとも、そもそも私の魅力は呪いに劣るのか。
胸に、錆び付いた槍を刺したかのような痛みが走る。彼が現れて以来、私は目を逸らした事はなかったのに、思わず私は目を背けていた。見たくない、息遣いすら聞きたくない、それが子鬼の呪いであろうとも、私以外への関心で夢中になる姿は知りたくなかった。
しかし、私の耳は無情にも、絶頂を迎える彼の小さな呟きを拾ってしまう。そしてそれは更に、私の気分を落ち込ませるものだった。
……もういい。ここから去ろう。彼の鉄壁を破り、温かい彼に触れる事など、人間に成せる業ではなかったのだ。
「……真壁」
彼が冷静を取り戻すのを待ち、私は声を掛ける。いつもはそんな呼び掛けなど無視するくせに、この日に限って真壁は素直に振り向いた。
「私、私……」
別れを告げようとする私に、真壁は手を突きつけ言葉を制する。そして私に、袋を差し出した。
「……?」
彼が袋の中から出したのは、異国の着物。外を歩く人間を見る限り、これは女物だ。