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真壁君は喋らない
第1章 真壁君は喋らない
「まさか、これを私にくれるのか?」
頷くと、真壁の散切り頭がさらりと揺れる。呪いのまま自慰に耽った後に、女へ贈り物など不躾極まりない。
極まりないの、だが……
新緑の季節によく似合う、若葉色の着物。袖は短く丈も足りないように見えるが、外を見る限り異国の服は皆そうだ。ひらひらした部分は、可愛らしいと思わない事もない。胸にあてがわれた大きな蝶々結びの紐も、心惹かれる魅力がある。
「わ、私のために、わざわざ手に入れてくれたのか?」
もう一度、揺れる黒髪。
今度胸に走ったのは、錆び付いた痛みではない。心臓から血液が溢れ、痺れる熱が全身を駆け巡る。こんな感覚、幾年ぶりなのだろう。それは『生』の痛みだ。
「……卑怯者」
こんな贈り物をされたら、別れの決意が揺らいでしまう。どうして今、その鉄壁に穴を開けてしまうのか。
「お前には、『みや』がいるんだろう?」
先程絶頂を迎える際に呟いた、独り言。誰かは知らないが、確かに『みや』と呼んでいた。そんな瞬間に口から出る名前など、考える間もなく想い人に決まっている。