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真壁君は喋らない
第1章 真壁君は喋らない
けれど、続く話に、あたしは否定する言葉を忘れてしまった。
「サークルの奴がさ、コートの隅で楽しそうに話してる姿をよく見かけるんだってさ。しかも、時たま笑顔まで浮かべるとか」
なにそれ、あたし聞いてない。真壁があたし以外の人間と会話して、笑ってる所なんて一度も見た事ない。どうしてだろう、血の気が、引いた。
「美也子は同じサークルの中に兄貴……確か、雅(みやび)とか言ったかな? とにかく兄ちゃんがいるらしいんだけど、そいつとダブルス組んだ事があって、それ以来兄妹ぐるみの付き合いだとか。公認の付き合いかもな?」
美也子だの雅だの、知らない人ばっかり話題に上がる。なにそれ……なによ、それ。頭の中は、ずっと同じ言葉ばかり反芻する。
「美男美女だし、お似合いだよなー真壁と美也子……って、ヤマ?」
目の前で振られる手で、あたしは現実に帰る。祐介は怪訝そうな表情で、あたしの顔を覗き込んできた。
「なんか、さっきより辛そうな顔してんだけど。なに、もしかして気持ち的な問題じゃなくて、病気系?」
額に当たる祐介の手が、冷たく感じる。おかしいな、熱なんてないはずなんだけど。