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真壁君は喋らない
第1章 真壁君は喋らない
「なーんか微妙に熱いようなそうでもないような」
「いや、どっちだよ」
「分かんねえ! ま、今日は家で大人しく寝てろよ。こんなとこでブラブラしてないで」
体調不良って事はないはずだけど、祐介に促されるままあたしは席を立つ。体は健康なはずなのに、足が、やけに重かった。
外に出ると、景色が揺れていた。人間は残像を作り、地面は柔らかい。世界が、揺れている。
「中原、美也子……か」
真壁の世界は狭い。寄ってくる人間がいても、周りをしばらくうろつけば離れていく、今まではそうだった。あたしは真壁より一つ年上だし、今までだって離れている時間は多かった。けれどあたしの知る真壁の世界は、変わらず不可侵だった。
「いや、なんでショックなんだろ……」
あたしの心を占めるのは、間違いなく焦燥感。でも、真壁は他人なんだ、あたしの知らない一面くらい持っていて当然だ。
なのに、世界が揺れる。焦りは止まらない。なんで、なんで、なんで? 真壁は、あたしに何にも話さないの。
違う。揺れているのは、あたしの心だ。
よく分からない泥沼に、足を突っ込んでしまった、その時だった。