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真壁君は喋らない
第1章 真壁君は喋らない
聞く機会は少ない、低くて落ち着いた声があたしの名前を呼ぶ。揺れる世界から目一杯首を上げれば、そこには真壁の顔があった。
「真壁……」
真壁はあたしの顔を覗き込んで、眉をわずかに下げる。心配、してくれてるんだろう。なんだかどっと安心してしまって、涙まで出そうになってしまう。
突然涙ぐんだあたしに驚いたのか、真壁はあたしの肩に手を伸ばす。けれどその手が触れる前に、もう一つ声が響いた。
『真壁に近付くな、子鬼が!』
ブチ切れワードをさらっと言ってのけるのは、半透明な真壁の同居人。けれどその姿は、下着でも白装束でもない。
「……その服は」
『ふっ、羨んでも知らんが教えてやる。これは真壁が私のために贈ってきた品物だ。どうだ、私にふさわしい美しき着物だろう』
胸に大きなリボンのついた、若葉色のワンピース。それは、あたしが真壁と買いに行ったんだから、よく知っていた。まあ、そんな事を口にすればまた脱ぎ出すだろうから、お口に三重チャックを掛けとかなきゃいけないけど。
とにかく、幽霊に服を着せる、という目的は達成したようだ。