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真壁君は喋らない
第1章 真壁君は喋らない
ふと耳に入る、吐息。そして真壁の手が、私に向かって伸ばされる。暇さえあれば書物ばかり読んでいるくせに、案外無骨で大きい手。真壁が好んで着る異国の着物は筒のようだから、この男がどんな体躯をしているのか想像は容易い。その手と同じく、細身に見えて実は逞しいだろう。
この私が何度声を掛けようとも無視し、当てつけのように塩まで撒いた無礼な男。流石にここまで迫れば、鉄壁も眼の野獣に食い破られるか。その真一文字に結んだ口が緩み、睦言が放たれるのか。
私が息を飲んだのと、部屋にかちりと音が響いたのは同時だった。
「幽霊に服を着せる方法?」
大学内で人も多い中、珍しく真壁が喋ったかと思えば、口にしたのはそんなオカルトな話。とうとうこの幼なじみは別世界へ旅立ったのかと、あたしは懸念してしまった。
「そういえば、真壁の借りてるアパートって幽霊出るんだっけ? 気にしないって言ってたのに、なんで?」
すると真壁は一文字に結んでいた口を、微かに尖らせる。大抵の人間は気付かないが、幼なじみのあたしには分かる。照れてるんだ、真壁。
「……いや、あんたってホントずれてるよね」