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真壁君は喋らない
第1章 真壁君は喋らない
「……いや、待って。ちょっと、トイレ借りるわ」
幸せな眠りを、不意の尿意で妨げられたら台無しだ。あたしは一度立ち上がり、トイレへと向かった。
用を足した後、ふと気付く。そういえばトイレは、整理しているし綺麗だ。試しに隣の風呂を覗いてみると、そこにはカビ一つない。備え付けの小さなキッチンも、水アカとは無縁だった。
「つーか、冷蔵庫でかっ!」
そして驚いたのは、冷蔵庫。男の一人暮らしのくせに、冷蔵庫は明らかに一般家庭用のものだった。確かにこのアパートは、大きい冷蔵庫でも余裕を持つほど広い。幽霊さえ出なければ、学生が住むには身の丈に合わない場所だろう。とはいえ、これは不必要な大きさだ。
ますますもって、真壁という男が分からない。あたしが首を傾げた、その瞬間だった。
音もなく、消える明かり。妙な寒気。
「え……?」
いや、寒いのは冷蔵庫のせいに違いない、指一本触ってないけど。明かりが消えたのは、ブレーカーが落ちたんだろう、微かに冷蔵庫の運転音が聞こえるけど。
「真壁……」
とにかく、真壁のところに戻ろう。けれど、肩にひたりと乗せられた冷たい感触が、あたしの足を氷にした。