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真壁君は喋らない
第1章 真壁君は喋らない
『鬼……』
耳元で聞こえた囁きは、この場所に存在しないはずの、女の声。いや、真壁がイタズラで女の声色を……
『……ぉ鬼よ!』
声色を、使う訳ないしあたしのバカ!!
「ぎゃあああーっ!!」
悲鳴を聞きつけて現れた真壁に、あたしは飛びつきしがみつく。でかい体が、今は何より頼もしい。お化け屋敷で女の子が恋の魔法に掛かるのも、今なら納得だよ、うん。真壁は子どもをあやすようにあたしの背中をさすりながら、本来は玄関のドアしかないはずの空間を睨みつけた。
『……ろ、……に』
何もないはずの空間に、青い炎が集まる。真っ白な着物に、床まで届きそうな黒髪。今日は下着姿じゃないのね、なんて軽口を叩く余裕はない。
『消えろ、子鬼め!!』
あたしの人生で初めて遭遇した幽霊は、美人だった。今は怒りに染まっているが、瞳は大きい。ちょっと厚めの唇は、思わず吸い込まれてしまいそうだ。こんな幽霊なら、朴念仁な真壁が照れるのも分かる。
「ざけんな……」
けれど、この幽霊は決して言ってはならない事を言ってしまった。穏やかで人望のあるあたしが、唯一地雷とする言葉だ。頭がプッツンして、すっかり我を忘れていた。