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秘密の二段ベッド
第5章 お兄ちゃんの決意
ベンチから動けずに小一時間。
ぼんやりしているとこの間見かけた兄妹が通りかかった。
公園のフェンスの向こうをやっぱり仲よさそうに二人で手を繋いで歩いて行く。

「あたしね、大きくなったらお兄ちゃんとけっこんするの」
舌足らずなかわいい声が聞こえた。
女の子がお兄ちゃんを見上げて笑っている。
お兄ちゃんも、妹を見て微笑んでいた。

二人は少し先を行く母親に呼ばれて元気よく走り出した。
パタパタと軽い足音が遠ざかって行く。

その後姿を見送る僕の頭の中で、さっきの言葉がよみがえる。
お兄ちゃんとけっこんするの……。
頭の中でかってに、そのセリフがあやねの声で再生される。
小さかったあやねの手。
何も迷わずにそれを握っていた小さい頃の僕。

膝に乗せた手を見る。
あの頃より大きく、武骨になった手。

最後にあやねと手を繋いだ日を覚えている。
昔を思い出すと必ず現れる記憶。
それをまた僕は思い出していた。


僕らが家族になって初めての夏。お母さんの方のおばあちゃんの田舎に遊びに行った。
山があって川があって、でもまわりに家はそんなになくて空が広々としていた。
僕らは子供らしい無邪気さで飛びまわるように遊んだ。
再婚する前は田舎がなかったからすごく楽しかった。父さんは多分気を使っただろうなぁと思うけど。

二日目の夜、ホタルを見に行った。
川を少し登ったところに現れるというので家族四人で向かった。
始めは解らなかったけど、登って行くにつれて周りにぽつぽつと小さな光が動いているのに気付いた。
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