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初花凛々
第2章 蝉時雨
「あの…っ、西嶋さん!」


カラスの傘を貸してくれた西嶋に、凛は思い切って話しかけた。


たかが傘を返すだけなのに、心臓は口から飛び出しそうなほどだった。


凛は、滅多に自分から西嶋に話しかけたりはしない。そのため傘を返すタイミングを逃しに逃しまくり、こうして話しかけたのは、あの日から一週間は過ぎた頃。
心なしか、フロア全体までもがシンと静まり返っている気さえする。


緊張のあまり俯いていた凛だが、反応がないため不思議に思いそっと顔をあげた。


するとそこにいたのは思いがけない人物。


王子様とは程遠い



むしろ、意味もなく嫌悪感を抱いていた、須田がそこにいた。


_____しまった!なんでこいつがここに!?私は西嶋さんに話しかけたはずなのに!なんで!


凛は頭がグルグルとパニックになりかけた。


俯いていたのが良くなかった。


_____もう!なんであんたたち似たような色のスーツ着てるんだよ〜!


凛は顔が一瞬で火照るのを感じた。


今日、西嶋が着ていたスーツは紺色。そして須田が着ているのも、同じく紺色のスーツだった。


固まっている凛を見て、須田はフッと笑った。それも凛を嘲笑うかのような、鼻から出た笑いで。


その笑いに、普段はそこまで怒らない凛も苛々としたものが過ぎった。


_____そう、私は須田のこういう所が嫌いなのよ。人を馬鹿にしたような、そんな所が。


_____けれどここは私的な気持ちを出す場面ではない。そもそも私が間違えたのが悪い。


凛はそう思い直し、「間違えました、すみません」一言述べて踵を返した。


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