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初花凛々
第14章 水魚の交わり
「こっち来て」


と、麻耶は凛の手を引いて、廊下へと呼び出した。


「どこ行くの?」

「んー」


麻耶は凛の質問をはぐらかしながら、そのフロアの廊下の端にある資料室のパネルに社員証をかざした。
するとピーという機械音と共に、資料室の自動ドアが開いた。


二人が入ると、しばらくしてそのドアはまた閉まり、今度はピピッというロック音が鳴った。


「私ここに入ったの初めて」

「人事部はここに用事がないもんね」


資料室には背の高いアルミ棚がズラッと並び、ファイルがビッシリと並べられていた。


凛は初めて見たこの光景が物珍しくくるくると見渡していると、麻耶が繋いでいた凛の手に、グッと力を入れてきた。


「ねぇ」


そういえば繋がれていた手と、麻耶の真剣な眼に凛はドキッとした。こんな麻耶の眼は、初めて見たなと思いながら。


「こんな風になるなら、もうやめておく?」

「え?」

「エッチの練習」


それを聞き凛は焦りだす。


確かに、こんな凛の態度のままではやりづらい。会社でも、プライベートでも。それは凛もよくわかっていた。


けれど、せっかくのこのチャンスを逃したくはない。それに、身体に触れられることの気持ち良さを僅かながらにも知ってしまった凛は、もう手離せないと無意識に思っていた。


「やめたくない……です」


凛は小声だけれど、麻耶の眼を見て言った。


麻耶はそんな凛の手をもう一度握って、自らの胸に引き寄せた。


「……麻耶?」

「焦るじゃん」

「なにが?」

「まぁ、色々だよ」


凛は麻耶の言いたい事はわからなかった。


けれど、引き寄せられた身体から伝わる、麻耶の鼓動。それは麻耶の少しばかりの緊張を伝えてくれる。


「……麻耶、ごめんね?」

「いいけど。……や、よくねぇ」

「ふふ」

「恥ずかしいのは初めだけだから。大丈夫」


麻耶は抱き寄せた凛の頭に手を乗せ、髪を梳くようにそっと撫でた。


「……今日も、して」


麻耶の優しい手の感触に、凛は思わずそんな事を口走る。


麻耶は不意打ちの言葉に驚いたが、迷わず返事をした。


「いいよ」


凛はそれを聞き、安心したように微笑んだ。

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