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初花凛々
第15章 蒼然暮色
一緒に帰ろうと麻耶は言ってきたが、薔薇の女性が不服そうなことに凛は気付いた。


「……麻耶、私のことはいいから……彼女のことを」


凛のその言葉に、その女性は敏感に反応を見せた。


「私達は恋人じゃないし、気なら使わないで。ね、麻耶」


凛はどう反応したらいいのかわからず、あやふやな笑みのようなものを浮かべるしかなかった。


「セフレ、ってやつだから。今は胡桃沢さんがターゲット?」


今度は、その言葉に、凛が反応する。反応すると言っても、凛は相変わらず上手いこと、何も言えないけれど。


「……凛はそんなんじゃないから」

「名前呼びなんだ」


その女性は、一瞬で不機嫌になったように凛は思った。そういえば、いつからだろう。麻耶は社内でも凛のことを、苗字でもなく、ニックネームでもなく、"凛"と呼ぶようになっていた。


麻耶は終始、無言だった。代わりに薔薇の女は、ペラペラと口を回している。


「……胡桃沢さん、だっけ」

「はい……」

「この男だけはやめときなよ。ハマったら辛いよ」


ハマったら辛い_____


もしかしたら、この女性は今、辛いのかも_____


凛はそう思った。


それにしても、立て続けにこの男はやめておけと言われる男・麻耶。けれどそう言われるだけのことをしてきた風には、凛には到底見えなかった。


「私のことを好きじゃなくてもSEXするんだもんね、麻耶は」

「……初めに言っただろ、それは」

「言われたよ?言われたけど……」


その女性は、縋るような眼で麻耶の顔を見上げた。けれどすぐに顔を逸らし、何かを飲み込むようにして俯いた。


「……もう、いいや。バイバイ……」


そう一言呟くが、麻耶はそれに対し無反応だった。



それを横目で見て、女性は部屋を出て行った。




パタパタと 廊下を駆ける音が、虚しく響いていた。


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