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初花凛々
第16章 夏深し
_____終わった……。


お昼休み。凛は社食のテーブルに頬づえをつき、窓の外を眺めた。


眼下に広がる都会の街並みは、もう夏のそれではなかった。


力強い緑が、優しく色を変えて行く様が見て取れた。それは景色が秋に差し掛かったことを示している。


夏から秋になる瞬間はどこか寂しい。


まるで今の凛を表しているようだと凛は思った。


_____なんて最悪なタイミング。


西嶋が目を丸くさせるのも仕方がない。エレベーターが開いて、そこに男のあそこを指差した女がいたら、そりゃ誰でも驚くだろう。


「ネット用語でいう、詰んだってやつ〜」


そんな声がして、面白そうに笑っている麻耶が、凛の隣に座った。


「笑い事じゃないよ……」

「マジなん?」

「マジっていうか……」


凛はもう西嶋のことは何とも思ってはいない。だがあんな場面を目撃されるのは恥ずかしいに決まってる。増してや、普段そんな話題とはかけ離れていた凛にとって、恥ずかしいこの上ない。


「……つーかどういうこと」

「え?」

「触りたいって、いきなりなんで?」


麻耶に聞かれて、凛は答えた。


ただ凛は麻耶に恩返しがしたいのだ、と。


「それで?凛は何をしようって思ってるの?」

「え、ここで言うの!?」


当たり前でしょ、という風な目線を麻耶は凛へと向けた。


ここで答えなければ、また耳を噛まれちゃう____


そう思った凛は、おもむろに麻耶の耳に口を近付けた。


「えっ」


思わず動揺を見せる麻耶。意外にも凛は麻耶のペースをいつも乱すらしい、ということに薄々麻耶自身も気が付いていた。


「な、舐めたいです」

「は!?」


麻耶は驚いた。驚いて、凛の顔を見た。


凛は愛の告白でもしたのかというくらいに顔を火照らせ、俯いていた。

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