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初花凛々
第18章 揺蕩う心
凛は水道の蛇口をひねり水を流した。ザアザアとした音に紛れ、全てを吐き出したいと思った。


「ここさすれば吐きやすいかも」


あのあとすっかり悪酔いしてしまった凛は、やっとの思いでアパートの部屋へと戻ってからも、洗面所で何分もこうしている。


もう吐き出すものがなくなっても、まだモヤモヤと気持ちが悪い。それは酒のせいだけではないと、凛は思っていた。







「……だいぶ楽になった」

「よかった」


幾分か吐き気もマシになり、ミネラルウォーターを飲んだら少し気分が良くなった。


「麻耶ごめんね……」

「や、いいよ。それより横になれ、早く」

「うん……」


麻耶に促され、凛はベッドに横になった。


少しだけ開けられた窓の隙間から、サァッと入るのは秋の夜風。


「寝ればいいよ」


麻耶は凛の額にかかった前髪を横に梳かすように撫でた。


優しい風のような柔らかな動きが心地よく、凛は癒されてゆく気がした。


____凛は圭吾のこと好きかと思ってた


目を瞑ると思い出されるさっきの雫の言葉


あれは酔っていた雫の、ずっと胸に秘めていた本音だ、と凛は思っていた。


つ、と流れる凛の一粒の涙。それを麻耶は、そっと指で拭った。


「……私、すごく滑稽じゃなかった?」


凛は先ほどの流れを経てからずっと、過去のことを思い出していた。


圭吾と高校で出会い、恋心を寄せ、けれど失恋をしてからの今までのことを。


「……前に麻耶に聞かれた時、否定したけど。私本当は好きだったんだ……」


語り出した凛の言葉。それを麻耶は黙って聞いた。


「麻耶に暴露たように、雫も知ってたんだ。それに工藤くんだって……っ」


先ほどは無意識に垂れた一粒の涙だったが、今度はハッキリとわかった。


目頭が熱くなり、瞑ったまぶたの隙間から、涙が溢れたことが。
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