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初花凛々
第3章 朧月の夜
「え?なんでだろう?」

「……コーヒー牛乳、冷たいからじゃん?」


また、須田はゲラゲラと馬鹿みたいに笑い出した。


和みの湯は閑静な住宅街の真ん中にあるため、須田の笑い声は無駄に響く。


「ちょっと!ねぇ!」


凛が制すると、須田はヒーヒー笑いながら「飯作って」と言った。


「飯!?」

「そ。俺もう腹ペコペコ〜」

「えっ、作るの!?私が!?」

「おまえ以外、誰がいんの?」


なぜか強気な須田に、凛はカチンときた。だけどここで穏便にしなければ、あれもこれも西嶋にだだ漏れだ。


「……いいけど」

「やった〜」


本当は嫌だったが、喜ぶ須田の無邪気な笑顔に、まぁいいかと思ってしまう。


手作りなのだから、当然凛のアパートに須田を招き入れることになる。


そのことに、凛はアパートの前まで来てようやく気が付いた。


「あ、あの!」

「なに?」

「やっぱり……今日は……」


_____やっぱりこんなの、無理!


凛は、男と部屋に二人きりという状況なんかもちろん経験がない。


増してや家族も家にいない、本気の二人きりなんて。


「別にいいよ?やめても。」

「本当!?」


須田の言葉に凛はホッとして笑顔を覗かせた。


「秘密漏れてもいいってことでしょ?俺って自分で言うのもなんだけど、すっげー口が軽いんだよねぇ〜」


_____うっわ!どこまでも最低最悪!見た目も中身も口も軽いなんて!


_____だけど、憧れの西嶋さんに悪く思われたくない…。


すっかり恋する乙女の凛の頭の中にポッと西嶋の優しい顔が浮かび、もう一度気持ちを固める。


「どうぞ、おあがりくださいませ……」


そんな凛の言葉に、須田はニッと口角を上げて笑った。


男性経験のない凛は知らなかった。


"飯作って"とお願いする男の、本当の目的を。
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