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初花凛々
第20章 山、粧う
麻耶とその女性がその場からいなくなり、凛は立ち去る麻耶の後ろ姿をぼうっと眺めていた。


「……そういえば西嶋さんって、椿さんとお付き合いされてるんですか?」


西嶋と二人きりになり、ふと浮かんだ疑問を西嶋に投げかけた。別にそれほど興味があったわけでもないが、間をつなぐ為に聞いてみた。


凛は本当にただ、何も深く考えずに聞いたのだ。


すると西嶋が返してきた言葉は、聞いたことを後悔させるほどに、凛を揺さぶった。


「まさか、付き合ってないよ。椿は須田のことが好きだしね____ 」






















「胡桃沢さん?」

「……へ?」


あの後、どうやって駅まで来たのか。凛は自分でもわからない。そして駅では偶然にも優に遭遇した。


「これ、落としたよ」

「え、ああ、ありがとう……」


凛は知らないうちに乗車カードを落としてしまっていた。


「……須田、帰ってきたのに嬉しそうじゃないじゃん」

「……だから、あの人と私は友人だって昨日言ったよ?」

「そう?でも、そんな風にはやっぱり見えないけど。」

「どう見えてるの?私……」


昨日麻耶の悪口を聞いたときは嫌な気持ちになったし、それにさっき、麻耶の姿を見たときには舞い上がってしまった。
それを優に見透かされているのだろうか。だとしたら、きっと変な女だと思われているに違いない、と凛は思った。


麻耶は、いつでも簡単に凛を一喜一憂させる。その原因は凛にはわからないが、振り回されるのは嫌じゃない。けれど度々ふと、心に影が落ちる瞬間がある。


「……疲れてるのかも。最近夏かってくらい暑い日もあれば、もう冬ってくらい寒い日もあって」

「ちゃんと身体も休めないとね。もう少しで社内研修旅行だし、体調整えておかないとだよ」

「……そうだよね」


凛は優に同意しながら頭の片隅で、今日は銭湯に行こうと思った。



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