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初花凛々
第23章 紅葉狩り
凛は迷ったが、実家の父に土産としてワインを購入することに決めた。


もちろん、世界にひとつだけのもの。


「父の名前と、んーとあとは日付」

「お父さんの誕生日にするの?」

「ううん、今日の日付にする」


凛は今日の日付に決めた。麻耶とここを訪れた記念でもあるし、と思って。


「俺も白一本買ってくわ」

「お土産?」


一瞬、無意識に凛の頭には椿の顔がポッと浮かんだ。


「いや、自分用。今日部屋で飲む」

「えー、ずる!」

「凛も来れば?」

「え、だって誰かと相部屋なんでしょ?」


麻耶はニヤッと口角を上げ笑った。


「俺、一人部屋なんだよね」

「えー!それこそずる!なんで?」

「二人ずつ割り振りしてったら一人あぶれたから。統括の権利をフルに活用」

「卑怯ー!」

「だから、来て。一緒に飲も」


その誘いには、断る理由なんてひとつも見受けられない凛。迷うことなく首を縦に振った。


それぞれワインを購入して、宿へと向かう。


宿へ着いた時、夕飯まであと30分。先ほどワイナリーでたらふく美味しいものを食べた凛は、ほとんどお腹がすいていなかった。


「わ、ほんとに一人部屋だぁ。いいなー」


夕飯まで、凛は麻耶の部屋で時間を潰すことにした。凛の相部屋は新山とだから、別に部屋に戻っても良かったのだけれど。

凛は麻耶のところへ、吸い込まれるようにやってきた。


「ふふ、麻耶お酒の匂いがする」

「凛もね」


麻耶は座椅子に胡座をかいて座り、その脚の間に凛は座った。一人部屋といえども、割と広いこの部屋で。なぜか二人は同じ座椅子に座る。


凛は麻耶に向き合うように座り、背中に腕を回し抱きついた。


凛は薄々、自分は甘えん坊かもしれないと気付いていた。きっとそれは相手が麻耶だから。凛の心の闇や、葛藤。悩みを全て知っている麻耶だから_____


「……麻耶」


凛はポツリと、麻耶の名を呟いた。別に用がある訳ではないけれど。


凛の声に反応し、麻耶が視線を凛に向け、二人はしばし見つめ合う。


「……呼んでみただけ」

「なんだよ」


麻耶も、こうして凛に精一杯甘えられるのも悪くない、と思った。


今まで経験も何もなく、真っさらな凛。


そんな凛にはなにか、とびっきり甘えさせたくなる何かがある、と麻耶は思った。
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