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初花凛々
第25章 天つ乙女
朝は旅館内のレストランにて、バイキングだった。


昨日の夕飯はロクに食べなかった凛。そのあとも酒と乾物くらいしか口にしていないのに、あまりお腹がすいていない。


油断すると、すぐに浮かぶのはやはり麻耶と過ごした時間のこと。凛は小松にキスされたことなんか、ほぼほぼ忘れかけていた。


それほどまでに、麻耶にされた口付けが濃厚で甘くて、思い出すだけで手にしているトレイも皿も全部落としてしまいそうになる。


けれどこんな事ではいけない。今日は凛の勤める洗剤メーカーの直属の工場を見学することになっている。今回の旅行は一応名目が研修なので、この工場見学はぼんやりとしていられない。


凛はふるふると頭を振り煩悩を飛ばし、皿の上にクロワッサンやピザ、あとは山盛りのサラダにフルーツを盛り付けた。


「朝からそんなに食えんの?」


背後から声がして。振り向かなくてもそれは誰なのか凛はすぐにわかった。風にのって、凛の大好きな香りが鼻を擽ったから。


「おはよ」


麻耶は爽やかに、凛と新山に朝の挨拶をした。


一方の凛はと言うと、挨拶を返すことも忘れ、ただただ麻耶の唇に魅入っていた。


_____たったさっきまで、この唇が、私の唇と_____


凛は再び、トレイを持つ手の力を緩めてしまいそうだった。
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