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初花凛々
第25章 天つ乙女
高級黒豚に舌鼓を打ちながら、次に出てきたのは日本酒。人数分の器が運ばれてきた。


日本酒はあまり上じゃないと凛は思いつつ、その光景を眺めていた。


料亭の板前が予め干し炙った鯛の皮を器に入れ、そこにグツグツと沸騰した熱燗を注ぐ。それだけでも物珍しいのに、板前はさらにその器に火を近づけると、酒の表面から青火が。


わぁ、と、その場で歓喜と驚きの声が上がった。


麻耶はその正体が何なのかを知っていた。ヒレ酒というのだと、教えてくれた。


「麻耶飲んだことあるの?」

「前に接待でね。その時はとらふぐの皮だったから、鯛は初」


香ばしい匂いが凛の鼻を擽る。


「熱いのでお気をつけて。ごゆっくりお召し上がりください」


板前は丁寧に頭を下げた。


「な、なんじゃこりゃ!?」


一口含み、凛の口からは女子力の欠片もない感想が飛び出した。


「ビックリするよね、初めは。美味しくて」

「うん!なにこれ美味しいー!」


魚のヒレ酒だなんて、どんなに生臭いかと凛は危惧していたが、それは無駄な心配だった。


鯛の炙りヒレが泳ぐその酒は、不味い低品質の日本酒でも何でも美味に変えてしまうと、板前は説明してくれた。


「安心してください。本日の酒は高品質ですよ」


板前はジョークをひとつ残し、その場を後にした。
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