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初花凛々
第4章 遣らずの雨
「……これって、関東テレビの通販番組で流れる商材でしたよね?」
「あぁ、そうなんだ」
今、社内では新商材のプロジェクトが展開されている。梅雨時の季節に向け、防カビ効果のある洗浄剤が提案されたのだ。
その商材を売り出すのは、深夜に流れる通信販売番組。
プロジェクトの中心でもある加藤がいない……となると、当然誰かが、その穴埋めをしなければならない。
凛は営業でもなければ、加藤が属する企画部でもない。
けれど課長は、ただこの書類をまとめてくれたらいいからと、人事の凛にお願いしてきた。
こんな風に、普段から凛は物事を頼まれることが多い。それはやはり、凛の物腰の柔らかさによって、周囲の人間がわだかまりなく依頼しやすいからだ。
社内を見渡すと、定時が近いため帰り支度をしている人が多い。
「……じゃあ、やります……」
凛の返事を聞き、課長はホッとした顔を浮かべる。
時計に目をやると、現在17時50分。須田との約束には到底間に合いそうもない。
約束を断るべく、フロアを見渡すが須田の姿はなく_____
凛はシャットダウンしたパソコンを再び立ち上げると、エントランスへ向かって駆け出した。
_____あれ!?いない!どこ!?
エントランスに着いたが、須田の姿がない。連絡先などもちろん知らない。
18時を回っても、現れる気配がない。
_____どうしよう!?
このまま放置して仕事に戻ることも頭を過ぎったが、すれ違いになると大変だと思い
凛は須田の姿を探した。
ところが、18時10分になっても、20分になっても須田は現れない。
凛はエントランスを抜け、社内のカフェテリアや食堂も見て回ったが須田の姿はない。
「どーした?」
「えっと…、営業の須田は中にいらっしゃいますでしょうか……」
男子休憩室にも行ったが、やはり須田の姿はなく_____
_____もしかして、帰った……?今朝のあれは、からかわれただけだったのかも。
須田は平気でそんなことをしそうだ、と凛は思った。
社内を走り回りヘトヘトになった凛が、自分のデスクに戻ったのは、席を立って30分以上経過した頃だった。