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初花凛々
第4章 遣らずの雨
「おせー。どこ行ってたの?」

「えっ!?」


須田が、凛のデスクの隣の新山の席に座っていた。


「ほら、早くやろ」


須田は、トントン、と、先ほど課長から受け取った用紙を軽く指で叩いた。


「え、いいよ!もう定時だよ?」


帰れと促す凛に、応じる気配のない須田。


「わたあめがパソコン貸してくれたから。やろ」


そう言って、須田は新山のパソコンを立ち上げる。ウイイーンと、機械的な音がして。


「わ…、新山さんと仲良いの?」

「気になるの?」

「そっ、そういうんじゃありません!」


ニヤニヤと笑う須田に背中を向け、凛はパソコンをカタカタと打ち始めた。


「…なぁ、これってどうなるの?」

「ん?どれ?あー、それはね。シフトキーを押しながら…」


早くやろうと須田が促すので、てっきりパソコン上級者かと思いきや。


「このパソコンおかしくねぇ?」

「おかしくないから」


凛は、子どもみたいに不貞腐れている須田が可笑しくて、笑いが漏れる。


「……すげぇな」


ブラインドタッチをする凛を見て、須田が呟く。


「高校で習ったの。情報処理科だったし」

「ふーん?意外」

「意外?」

「うん。パソコン出来るイメージじゃなかった」


また、勝手なイメージを抱いてる。そう言って凛は笑った。


「須田くんこそ、パソコン得意そうなのに」

「そう?」

「うん。だって西嶋さんが……」


凛は、西嶋のスッとした指先から奏でられる、パチパチと優しくパソコンを弾く音が好きだった。


「あぁ、あいつは凄いよね。今って、なんでもかんでもパソコンだもんなぁ」


須田が寂しげに呟く。パソコンの画面とキーボードを交互に見ながら、人差し指で一生懸命文字を打つ。それを見た凛は「パソコン教えようか?」と提案した。


「マジで?」

「うん」

「じゃーよろしく。俺も使えなきゃヤバいし。助かるよ」


嬉しそうに笑う須田。


_____この人笑うと子どもみたい。


無邪気な須田を見て、やはり笑顔は人を幼くする、と凛は思った。
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