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初花凛々
第27章 小春日和
きっとビジネスマンに狙いを定めたこのホテルの部屋には、無駄な装飾もなにも施されていない。


自由に使えるWi-Fiと、そして他より多めにあるコンセント。


枕はなぜか、二つ。


抱っこして、と言わなくとも麻耶は凛を抱きしめた。


ギシ、とベッドは軋み、クリーニングから帰ってきたばかりのシーツの匂いがした。


この機械的な匂いは凛は苦手だった。けれど抱きしめられた麻耶の身体から香るハチミツのボディソープと林檎のシャンプーの香りが、凛を丸ごと包み込む。


「……あったかい、麻耶……」

「凛はなんか、冷たい。ちゃんと入った?」


やはり麻耶にはすべてお見通し。怖くて長湯出来なかったのだと伝えると、麻耶は笑った。


「子どもみたいだな」

「本当に。私もそう思う」

「凛、可愛い」


麻耶は凛を抱きしめる腕に力を込めた。


それはあまりにも優しさで溢れていて。


凛は思わずまた、泣いてしまいそうになった。





















カチャ


何か物音がして、凛はふと目を覚ました。


辺りは薄暗かった。


部屋の間接照明がぼんやりと橙色に灯っている。


凛を抱きしめてくれていたはずの麻耶はいなかった。身体を起こし、半分寝ぼけたまま凛は辺りを見渡すが、やはり麻耶の姿はなかった。


_____どこ?


凛は急に心細くなった。


ここは宮城。凛の生まれ育った街にいるのに、何故か都会の雑踏に紛れている方が、凛にとって落ち着くらしい。


カチャ、と再び物音がして。振り返ると麻耶がいた。


「ビビる。起きてたの?」


部屋を出た時には眠りこけていたはずの凛が、ほんの数分その場を離れた隙に起きていたことに麻耶は驚いた。


「だって麻耶がいないからっ……」

「ごめん、喉乾いたから」


麻耶の手には、ビールの缶が三つ。


「凛も飲む?」

「私はいい」


麻耶が戻ってきたことに安心して、凛はベッドにゴロンと横になった。


プシュッと音を立て、麻耶はビールの蓋を開けた。


飲むリズムに合わせ動く喉仏から、凛は目が離せなかった。





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