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初花凛々
第27章 小春日和
凛はごくりと息を飲んだ。その音は、隣に座る麻耶にまで届いた。


「な、仲良いよ!」


嘘じゃない。凛は麻耶と確かな友情を築き、今こうしてここにいる。
そんな大切な友人である麻耶の事を、昨日はパッとしたイメージだけで父親に意見され腹も立った。
けれど凛は思い出す。そういえば自らも元々麻耶に抱いていたイメージは、父親が述べたものと似たようなものだった、という事も。


そんな独断と偏見は、実は父親譲りなのではないかと思った。


「……麻耶はね、職場の仲間の一人なの」


家族が見守る中、凛は語り出した。


「初めは……、そうだね。お父さんと同じく、私も麻耶に対して色眼鏡で見ていた部分があった」


いかにも軽そうな見た目と、それに伴った社内での噂。麻耶は凛が最も苦手とする異性の代表的なタイプだ、と思っていた。


ひっそりと道の端を歩いてきた凛にとって、麻耶は真逆のようだった。


まるでランウェイのど真ん中がお似合いの麻耶は、眩しすぎた。


「でもそれは違った。麻耶には何度も私、助けられてる」


そう、麻耶のお陰で、凛は随分前向きになれた。女として、人として。麻耶に可愛いと言われるたびに、凛は心から嬉しかった。


身体で色んなことを教えてもらい、女としての悦びも知った。


良い子だねと言われると、幼い頃の自分が救われる気がした_____


「……麻耶がいなかったら私、こうしてここに……家に帰ってくることすら、出来ないままだったと思う」


凛は今までの事を思い出し、今にも涙が溢れそう、と思った。


そして思う。


麻耶にしてもらった分、私は何も返せていない、と。


_____強いて言うなら、凛が幸せになる姿が恩返しかな


いつだったか、麻耶はそう言っていた。


幸せになる姿、それはきっと凛が恋人を見つけるという事なのだろう。わかってはいるが、凛はまだそんな日が来るなんて想像出来ない。


けれど確実に、麻耶から離れ一人立ちしなければならない時が、刻一刻と近づいている事はわかる。


「……凛」


父親に名を呼ばれ、凛はトリップした頭を再び戻し、視線を父親に向けた。


先日酷い言葉を浴びせてしまった父は、見たことのないような……


けれども懐かしいような。


そんな目で、凛を見ていた。


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