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初花凛々
第28章 萌し
それから二時間は経っただろうか。ゆっくりと落下していた点滴は終わった。


「……凛、いてくれたんだ」


目の覚めた麻耶は、夢と現実の狭間にいた。


病院独特の消毒が行き渡った匂いが、更に現実味を消している。


その日病院に泊まってもいいと医者は言ったけれど、帰ることにした。









「生き返ったー」


自宅にて熱いシャワーを浴びた麻耶は、やっと目が覚めたと言った。


自分がいたらゆっくり出来ないかと思い、凛は帰り支度を始めた。宮城からの荷物がそのまま置かれていたので、それらをよいしょと持ち上げて。


「……帰んの?」

「え?うん」


凛はコートを着て、マフラーを巻こうとした、その手を麻耶は掴んだ。


「ダメ」

「えっ……」

「帰んないで」


麻耶は凛を引き止めた。


それも甘えるような、縋るような表情で。


その行為には凛も、そして麻耶自身、驚いた。


「……でも、私がいたらゆっくり眠れないじゃない?」

「いや。むしろいてよ」

「シングルベッドなのに……」

「それは慣れてるって言ったじゃん」


凛は笑った。


頑なに凛を引き止める麻耶が可笑しくて、可愛くて、麻耶らしくなくて。


「一緒に寝てよ」


懇願する麻耶に、凛は駆け引きをして楽しもうかとも思った。


けれどそんな器用な技を、凛は持ち合わせていない。


「私も麻耶といたい」


凛の口からは、やはり素直な心の声がそのままに。





_____好き。




凛は先ほど新幹線の中で、そう口走った。


もっと一緒にいたいと思う気持ちのもっと奥の方。


初めてのキスもSEXも相手は麻耶がいいと思う理由の影に、そっと息を潜めるものの正体に、凛は少しずつ気がついて行く_____

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