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初花凛々
第29章 山茶花咲いて
凛は一人息を潜め、仕事納めの日を指折り数えていた。


あの日から、麻耶に終わりを告げられた日から、二人は口付けすら、交わさなくなった。


社内で会って、挨拶や雑談なんかはする。喧嘩している訳でもないから、普通に。


けれども二人からは、あんなに交わしていた口付けの時間が、嘘のように_____それこそ泡のように消えた。


もしかしたらあれは夢だったの?


そう思うほどに、二人からはその時間がパッタリと無くなった。










12月27日、仕事納め。


その日はどの部も午前で仕事を切り上げ、皆早々と帰宅した。


凛は一人定時まで残り、デスクを隅々までそうじした。


ピカピカになったデスクを前に、今年はお世話になりましたと、一礼した。


凛は名残惜しそうにしながら、フロアをあとにした。


「ぎゃっ!」


誰もいないと思っていたその先に、人影が_____


「色気のねぇ声だな」


麻耶が、そこに立っていた。







「ビックリした」


凛は涙目になってしまった。


「だって。今日飯行く約束してたじゃん」

「あれ……接待は無かったの?」

「あったけど。昼に済ませた」

「そっか」


麻耶は忙しかったと思うが、凛は嬉しかった。


こうして二人で過ごせることが、嬉しかった_____


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