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初花凛々
第29章 山茶花咲いて
さぁご飯へ行こうと張り切ったものの、時期が時期だけに、どこの店も満杯だった。


スナックなら空いていたけれど、そんな気分ではないと思った。


「……どうせなら俺、凛の作った飯が食いたい」

「えっ、そんなんでいいの!?」

「むしろそっちのがいいって思ってた」

「麻耶がそれでいいならいいんだけど……」

「じゃあ、それでお願い」


麻耶は笑った。そう、いつものあの顔で。


二人はその足で買い出しに行き、そして和みの湯へ向かった。それはお決まりのコースとも言える。


「コーヒー牛乳あんじゃん」

「でも一本しかない」

「凛飲めば」

「いいの?」

「うん」


麻耶は凛に譲ってくれた。けれど凛がゴクゴクと飲んでいると、横から奪って飲み干した。


「あーっ!」

「美味いわ〜」


やはり凛は楽しかった。楽しくて、麻耶と過ごす時間が、とても早く過ぎてゆくような気がした。


そのあと、麻耶の家へと行った。


麻耶の部屋で幾度も腕をふるってきた凛にとって、麻耶のキッチンも使いこなせるほどになっていた。


その日のメニューは、麻耶のリクエストで豚肉の生姜焼きに、出し巻き卵。それにもつ鍋。


「これって初めて私が麻耶に作った時と同じメニューな気がするんだけど」

「そうだよ」


まだ覚えていたのかと、凛は驚いた。


もう半年も前のことなのに。いや、まだ半年しか経っていない。


このたった半年の間に、麻耶との距離は随分変わったなぁと、凛はつくづく思った。
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