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初花凛々
第30章 愛の戯れ
「……起きてたの?」


背中に麻耶の声を聞いて、凛は振り向こうとした。その直前。


「ま、麻耶っ、あの……!」

「あったけ〜」


麻耶は凛を、後ろから抱きしめながら呟いた。


背中に温もりを感じて、やっぱり幸せだと思ってしまうのは凛の本能。


昨日麻耶の腕の中で、たった一瞬でもいいから繋がりたいと凛は思った。そう、永遠なんて、贅沢なことは言わない。


でもその一瞬が、ずっと続けばいいのに……と、凛は思った。


「凛、昨日のことなんだけど……」


麻耶が何かを言いかけ、凛はどきりとした。


麻耶の口ぶりが深刻そうだったから、尚更。


「なに?」


精一杯、冷静な声を出す。けれども少し、震えてしまったかもしれない。


凛は麻耶に言われるであろう言葉に、そっと身構えた。


「……ちょー可愛かった」

「え」


予想外の言葉に、凛は驚き思わず間抜けな声を出してしまった。


「なんかもう、本当に可愛すぎて、どーしよ」


そう言って、麻耶はキュッと、凛を抱きしめる腕に力を入れた。


「……痛かっただろ。血、出たもんな」

「うん……、でも、痛いけど、もっと痛くしてって思ってた」


痛ければ痛いほど、麻耶を感じられるから、もっと。


昨夜凛は、繰り返しそう思っていた。


「なにそれ、凛ってM?」

「M?」


それもわからないんだ、という風に、麻耶はケラケラと笑った。


昨日は麻耶は最後まで達さないままに行為は終わった。


ぬるっと一度抜かれたら、処女が破られたと知らせる出血があったから。


今日はもうやめよう、と麻耶が言って、凛はそれに従った。


「……もう少ししたら、痛くなくなるし。気持ちよくなるから」

「そうなの……?」

「うん。だから、懲りずにまたしよ」

「う、うん!」


凛は嬉しかった。


麻耶との時間は、これで終わりではないと思ったから。


飛び上がりたいほど嬉しかったが、今はまだ服を着ていないので大人しくしていた。


「凛さ、よく可愛いって言われるでしょ」

「何言ってるの。ないよ」

「じゃあ、あれだ。みんな気付いてないだけだ」


麻耶の言うことが可笑しくて、凛は笑った。


まだ切なくて甘い痛みをそこに感じながら、凛は幸せな朝を噛み締めた。

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