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初花凛々
第31章 花笑み
漆黒という言葉が似合うくらい、真冬の空は暗かった。


けれどもその黒い黒板のような空に、色とりどりのチョークで落書きをするように、次々と花火が打ち上がる。


光の花が咲いたあと、数秒遅れて音がする。


その音は、おなかの底まで響く。


「……綺麗」


凛はそれを見上げながら、ため息まじりに呟いた。


もっと語彙があれば、もっと上手く感想を言えるのにと思いながら。


「!!」

「口、あいてる」


ぼうっと見上げていた凛の唇に、麻耶の唇が一瞬だけ、不意打ちで重なった。


ひや、と冷たくて、柔らかい。


新年の新たな幕開けを祝って打ち上がる花火は、凛と麻耶を祝福するように煌びやかに夜空を彩った。

手には麻耶の温もりを感じ、唇にはまだ、感触が残っている。


蕩けそうなほど甘い幸福の時間が流れて、凛は思わず、泣きそうになる。というか、目を潤ませた。


「……ほら、甘すぎるお菓子を食べると泣きたくならない?」

「ちょっとわかんない」


涙の言い訳を探すが、上手いこと見つからない。


ただただこの幸せが嬉しくて、それで泣くなんて。


けれどそんな凛のことを麻耶はお見通し。


初めてSEXした時の凛の涙は、麻耶の心に深く刻まれているから。


うれし涙を流す凛のことを、可笑しいだなんて思わない。


「……好きだよ、凛」


麻耶らしくもない。


うっかりと漏れる、愛の囁き。


しかも公衆の面前で。周囲にはきっと、麻耶の言葉が聞こえてしまっただろう。


それに気付いた麻耶は、しまった、という顔をした。


愛の囁きは嬉しい。けれども、そんな麻耶の姿は、もっと嬉しいと凛は思った。

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