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初花凛々
第31章 花笑み
「凛」


麻耶は呆然としたままの凛を促して、立ち上がらせた。


「力入んない」


SEXの余韻で、脚に力が入らなかった。まさに腰砕けとは、このことかと思いながら、麻耶に手を引かれて部屋へと入った。


ふと冷静になると、どれだけ互いを求めているんだ、と可笑しくなってきた。


ベッドまで待てず、部屋にも入らずに。







「なんか、凛痩せた?」

「へ?」


寝支度を整えてベッドに入ると、麻耶に問いかけられた。



そう、麻耶の言う通り凛はここ最近、体重が落ちていた。


「なんだか最近、食欲がなかった。忙しかったからかな?」

「でも、一昨日勿忘草に行った時は結構食べてたよな」

「あ、うん。もう治ったから」

「風邪でもひいてた?」

「ううん」


そこで凛は口ごもる。それはまさしく、恋の病というやつだったから。


麻耶との時間の終わりを感じていた凛は食欲が失せ、本当に何も喉元を通らずに。


頭もうまく回らなかったし、喉元は狭くなったように苦しかった。


それに何を見てもモノクロな気がしたし、何を口にしても美味しいと思えなかった。


けれども、麻耶との愛を確かめ合って行くたびに、その病は癒えていった。


凛は自分でも可笑しかった。


それがあまりにも単純すぎて。


「勿忘草って、凛がたまにお土産に買ってくる店だよね」

「うん」

「いつも美味しいけど、昨日食べたやつも美味しかった」


一昨日、麻耶は凛に誘われ勿忘草へと出向いた。


今年最後の挨拶と、12月の菓子を味わいに。


椎葉は最近、必ず土産も買って帰る凛に何か感じていたのだろう。


麻耶と二人で訪れた際には、ぱあっとした表情をした。


「白餡の赤紫蘇巻です」


凛は紫蘇が苦手だったが、最近では好きになっていた。


最近、というか、紫蘇の美味しさを知ったのは例の小松のせいなのだけれど。


そこは目を瞑るとして、白餡の甘みと赤紫蘇の酸味のコントラストを楽しんだ。それは見た目にも美しい。白に赤紫が移り、優しい色合いになっている。


色を知らないまっさらな白が、段々と赤に染まってゆく。


まるで凛と麻耶のようだった。
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